お隣さんの恋愛事情
そう言った瞬間、太ももを思いっきりつねられた。声にならないほどの痛みを必死で口パクで朝子に訴える。
「……前に読んだ雑誌…覚えてる?」
「ぁぃ…」
「24にもなって処女とか、よっぽどモテなかったんだなとか男は思うらしいよ。」
「確かにそう書いてありました…」
「処女って聞いて可愛いとか初々しいとか思うのは、今の時代10代だけなんだって。」
「えぇ、そう書いてありました…」
「逆に引くって。」
「はい…」
「もはやあんたは天然記念物。」
「そうですね…」
「あんたの場合、いつかは結婚できるんだからまぁいっかっていう種類の女じゃないことくらい自覚してるよね?」
「もちろんです隊長!」
「このままだと、あんた最後は一人で孤独死決定なわけよ。わかる?」
「犬と猫どっちを飼うほうがいいかな?もしも部屋で一人で死んじゃったら、周りの人に気づいてもらえるためには、やっぱり犬かな?」
「よし、一回黙ってみるか」
ちょっとしたアメリカンジョークのつもりだったのに、朝子が箸を目の前に突きだすもんだから、慌ててNO!NO!と訴えた。
「なら乳くらい出す勢いでいかんか!!」
「はい!隊長!」
もはや太ももの痛みなどとうに忘れた。いや、忘れざるを得ない…。目の前に、悪魔よりもお化けよりも、閻魔大王よりも恐ろしい顔をした朝子に逆らうことなど、小心者の私にできるわけがなかった。
「じゃっ、頑張ってね!恭子!」
この女は百面相かというほどの変貌ぶりで、笑顔とは裏腹に物凄い力で肩を叩かれた。
私は乾いた笑いでグッと親指を立てた。