我妻教育
「啓さま、フィギュアスケートをご覧になるのは初めてなのではなくて?」


目の前にアイスリンクが広がる。
白銀が眩しい。



客席に座ると、まもなくジャンの出番がおとずれた。

ほんとうに、ギリギリだったようだ。
準備運動は万全なのだろうか。


心配をよそに、ジャンは吹っ切れたような明るい顔でリンクに現れた。

私は少し、胸をなで下ろした。


「あの衣装は、白雪姫の王子をイメージしているらしいですわよ」

琴湖がジャンを指さして言った。


「王子か・・・。ジャンらしい選択だな」



フィギュアスケートの世界では、名の通るジャンの登場に、会場は沸いた。

音楽がかかり、ジャンが演技を始める。



私と琴湖は、黙ってジャンを見つめた。



ジャンは、最初のジャンプこそ転倒したものの、あとは何とか持ち直した。

失敗を引きずることなく、気迫のこもった演技をやり通してみせた。


見事だ。


私は何度も、うなずきながら演技を見守った。



演技終了後、ジャンは小首をかしげたが、観客の拍手に全開の笑顔でこたえた。



私は立ち上がり、惜しみなく拍手をおくり、健闘をたたえた。



「最初のジャンプの失敗も、忘れるくらいの良い演技でしたわね」

琴湖も立ち上がり、拍手している。



ジャンが、私と琴湖にむかって拳を突き出した。


私たちは、拍手でこたえた。










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