落下点《短編》
ごめん、朋也くんが小さく言う。
朋也くんはキスをしたあと、いつも謝る。ごめん。そのたびにあたしはどうしようもなく苦しくなる。
一秒もないそれは、いつもあたしたちの間に空白をもたらす。続く沈黙が怖くなって、あたしから口を開いた。
「…今日な、久しぶりにサチに会ってん」
「…へえ!元気やった?」
「うん!!大学ってあっという間やな〜とかいう話したわ」
肌に隙間なく密着したホットカーペットは、少し熱すぎるくらいになっていた。頬が火照っているのが、自分でもわかる。
寝そべっていた体をゆっくりとおこした。思ったよりも近い距離で、朋也くんと目が合う。慌てて大げさにそらしてしまった。
「…トモちゃんは、卒業したらどないすんの?」
俯いたままのあたしに、朋也くんは少しかすれた声でそう言った。
「実家戻んの?」
「…うーん、どうだろ…就職先もあるし、まだハッキリ決めてへんけど…」
ブラックとグレイが基調の部屋。黒いカーペットの上。あたしの着ているセーターは、そこに溶け込んでしまいそうなほど全く同じ黒の色だった。
…麻痺してしもたんかな。もうお香の匂いがしない。
「…そっか」
「あ〜就職したくないな!もういっそ嫁にもらってもらえれば楽やのに───、」
朋也くんの顔が、突然こわばった。
…言ってからしまったと思った。深い意味なんてなかった。別に、陣ちゃんに、だとか、そんなことはひとつも。
朋也くんもしまったと思ったのだろう。慌てて笑顔を作ろうとするけれど、うまくいかなくて。
泣きそうに歪んだ口元。福笑いで失敗したみたいに、いびつな笑顔。
どうしたらいいのかわからなくて顔を背ける。その途端に世界が反転した。
頭がごつん、と床にぶつかる。
「痛…っ、」
全部言い終わる前に、そのまま唇を塞がれる。強引にキスをされた。
ねじり込まれる熱に、体がビクッと震える。
怖かった。今まであたしたちが重ねてきたそれは、きっと、外国人の挨拶程度のものでしかなかったから。
熱い手のひらが、あたしの肌に触れる。…陣ちゃんの手は、もっとずうっと冷たい。
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朋也くんはキスをしたあと、いつも謝る。ごめん。そのたびにあたしはどうしようもなく苦しくなる。
一秒もないそれは、いつもあたしたちの間に空白をもたらす。続く沈黙が怖くなって、あたしから口を開いた。
「…今日な、久しぶりにサチに会ってん」
「…へえ!元気やった?」
「うん!!大学ってあっという間やな〜とかいう話したわ」
肌に隙間なく密着したホットカーペットは、少し熱すぎるくらいになっていた。頬が火照っているのが、自分でもわかる。
寝そべっていた体をゆっくりとおこした。思ったよりも近い距離で、朋也くんと目が合う。慌てて大げさにそらしてしまった。
「…トモちゃんは、卒業したらどないすんの?」
俯いたままのあたしに、朋也くんは少しかすれた声でそう言った。
「実家戻んの?」
「…うーん、どうだろ…就職先もあるし、まだハッキリ決めてへんけど…」
ブラックとグレイが基調の部屋。黒いカーペットの上。あたしの着ているセーターは、そこに溶け込んでしまいそうなほど全く同じ黒の色だった。
…麻痺してしもたんかな。もうお香の匂いがしない。
「…そっか」
「あ〜就職したくないな!もういっそ嫁にもらってもらえれば楽やのに───、」
朋也くんの顔が、突然こわばった。
…言ってからしまったと思った。深い意味なんてなかった。別に、陣ちゃんに、だとか、そんなことはひとつも。
朋也くんもしまったと思ったのだろう。慌てて笑顔を作ろうとするけれど、うまくいかなくて。
泣きそうに歪んだ口元。福笑いで失敗したみたいに、いびつな笑顔。
どうしたらいいのかわからなくて顔を背ける。その途端に世界が反転した。
頭がごつん、と床にぶつかる。
「痛…っ、」
全部言い終わる前に、そのまま唇を塞がれる。強引にキスをされた。
ねじり込まれる熱に、体がビクッと震える。
怖かった。今まであたしたちが重ねてきたそれは、きっと、外国人の挨拶程度のものでしかなかったから。
熱い手のひらが、あたしの肌に触れる。…陣ちゃんの手は、もっとずうっと冷たい。
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