落下点《短編》

「…そうかなぁ」

「お似合いやもん!めっちゃ仲ええやん!」


結婚式には呼んでな、ひひっと笑ってそう言ったサチ。胸の奥がグルグルと渦巻く。

…サチには言えない。本当は自分が、ふらふらと裏切るような真似をしているだなんて。


口の中が、やけに甘ったるくてひりひりした。








「適当に座って…ってもう寝転んどんかい」

ホットカーペットに寝っ転がって、全身でじゅうって吸い上げるみたいに、熱を溜め込む。

案外きれい好きだったのだというのは、部屋に招かれてから初めて気づいたことだった。

朋也くんちは落ち着いたモノトーンで、普段おちゃらけている彼の雰囲気とは違っていたから初めは驚いた。

差し入れにコンビニで買ってきたアイスを朋也くんが冷凍庫にしまっている。冬の、暖のとれた部屋で食べるアイスは格別だ。
朋也くんはその良さがいまいちわからないというけれど、夏の冷房の効いた部屋で食べるアツアツのカレーは好きらしい。


ふと鼻先に、何かが香って顔を上げた。


「…朋也くん、香水つけとる?」

「え?なんで?」

「なんかええ香りがするなぁ、ておもて」

「…ああ!お香焚いてん。最近ハマってもて」


疲れた時とかに、落ち着くから。そう言って朋也くんは笑うと、お香を何種類か取り出して見せてくれる。

あたしは一番、緑色のやつが好きだった。みずみずしい、草原みたいな香り。


「バニラの匂いとかもあったで。買おてへんけど」

「へえ!!めっちゃおいしそうやん!」

「…なんかアイス食べたなってきたわ」

「え〜!?さっき冬にアイスの良さがわからんとかゆうたくせに!!」


…陣ちゃんの部屋は、お香のいい香りなんてしない。焦げた匂いだ。


陣ちゃんのコタツは、熱さを調節できない古いやつ。オンかオフにしかできないそのコタツは、つけると何かが焦げたみたいな匂いを発するのだ。

ふわ、と柔らかい髪の毛が額に当たった。と思った瞬間に、そのまま唇が触れた。

まだおでこに止まったままの、ふわりとした朋也くんの髪の感触。

隠れていた罪悪感が、胸の奥で顔をのぞかせる。
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