愛しいキミへ
「…ごめん。でも…俺だって…悩んだんだよ。」

絞り出すような声だった。
こんなにも悠兄が小さく見えたのは初めてだった。
悩んだ?悩んだ結果が別れって意味わかんねぇ・・・

「…わかんないよ。なんでだよ…。」

掴んでいた胸ぐらを離し距離を置く。
このままだと今度は顔を殴ってしまう気がした。
その瞬間にハッとした。

「沙菜…。」

走り去った沙菜。
ただの喧嘩だと思ったから追わなかった。
でも別れ話をされたなんて・・・今どんな顔しているんだ?
もう、別れの理由なんて聞いてる場合じゃなかった。
携帯を取りだし電話をかける。
するとそばにあった鞄の中から着信音が聞こえた。

すぐに悠兄の家を飛び出し、沙菜を探し始めた。
走り去る沙菜は自分の家を通り過ぎていた。
だから沙菜の家には寄らずに、マンションの外へと出る。
変わらず雨が降っていたが、なにも気にせずに雨の中走る。

「沙菜ー!!」

あてもなく近所を探す。
雨が降っているのに傘もささずに走る俺を、すれ違う人は不思議そうに見ていた。
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