林檎と蜂蜜

放課後はほとんど使われていない講義室。今日呼び出された場所。俺はエナメルバッグを持って、用事が終わったらすぐ帰れるようにそこへ向かった。この教室はうちのクラスの奴らも選択授業で使ってるらしい。梨紗が言ってた。

入ってすぐの適当な椅子に座ったら、声を掛けられた。

「いきなり呼び出してごめんね?高野クン。」

「いや、いいっすけど。何の用すか。」

素っ気なく返す。俺はこんな女どうだっていい。

「ふふ、わかってるくせに。」

近づいてきて、前の席に座る先輩。名前なんて知らない。草壁から言付けられただけだし。

「ね、付き合ってる女の子いないんでしょ?」

「イマセンけど。」

「あたし今フリーなんだ。」

「そうなんですか」

興味ない。態度でそう表したら、先輩はいらっとしたのか、俺のネクタイを引っ張ってきた。なんてことするんだこの女。

「わかってるくせに。ねぇ、あたしと付き合ってよ。」

「、」

ネクタイを引っ張った勢いついでに口を彼女の唇で塞がれた。俺は目を見開いた。反射的に先輩を突き飛ばす。

「、なにすんだよっ」

「なによ、キスくらいで怒るの?可愛いっ」

ケタケタと笑う彼女に俺はただあきれ返った。

かたん。

扉から音がして、そちらを見た。誰かが走り去っていく音がして。

「見られちゃったね、なんだっけあの子。篠崎さん?」

ハ――?

「な…っ」

ああ、今日は厄日だ。



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