林檎と蜂蜜
頬が痛い。理由はわかってる。猛にグーで殴られたからだ。アイツ本気でやりやがった。
梨紗がおずおずと手をおしぼりを当ててくれた。
「わりぃ…。」
「うん…、私のほうこそなんかごめんね…。」
気まずい空気が俺たちの間に流れた。
たった今猛行きつけのスタバから、駅近くのファミレスに移ったところだ。
今日は梨紗に謝ってばっかな気がする。情けねぇ…。
「ま、誤解だったんだし許したげるよ。」
猛が眼鏡のレンズを磨きながら、つまらなそうにそんなことをほざきやがる。ってか、お前関係ねぇだろ。
スタバで洗いざらい経緯を吐かされた(尋問されたって言葉がしっくり来るくらい恐かった)後、猛に一発ヤられて、店の空気を可笑しくしてしまったので場所を移った。猛はもう何もなかったかのようにアメリカンを啜っている。珈琲中毒者め。
「もういいでしょ。はやく付き合っちゃいなよ。」
今日の晩御飯なんだろ。
そんな日常会話のさり気ない一言みたいに、猛は爆弾発言をしやがった。
「は…」
「た、たけ?!」
「僕が疲れたんだよ。なんで好き同士の二人がすれ違う度に間を取り持たなきゃなんないのさ。」
分厚い本を鞄から取り出してパラパラとめくりだす。とても退屈しているガキみたいだ。
「おまえ…、」
「もう僕が居なくても大丈夫でしょ?此処までしたんだから会計はよろしくね、隆司。」
銀縁の眼鏡を光らせて、猛は微笑んだ。そして珈琲を飲み干すとソッコー店を出ていった。