来る来る廻る
母の照れ隠しが、私は妙に嬉しかった。

久し振りの心躍る感情 ♪ 私はスキップでもしたい気持ちを抑え、旅行会社に向かった。

出来るだけ、遠くに行きたかった…。

出来るだけ、いい温泉に行きたかった…。

出来るだけ、美しい思い出を作りたかった…。

私は、これまでの旅行で一番贅沢なプランを選んだ。

新幹線に乗り、3人で駅弁を食べた。

母の顔はまるで小学生…。

そぅ、子供が親を見る視点は、いつか逆転する。

正に、この時が転換の境目だった。


見渡す限りの青い海、親子水入らず…まるで異国に来たよう…。

ここの温泉街でも最高級の旅館、それも特別部屋を選んだ。

「天女の湯」と名付けられた露天風呂に、母と二人で浸かる。

海を一望しながら、二人は潮の香りに包まれた。

いつもの旅行とは違う、壁を越えた向こうには、父も同じ湯に浸かっている。

そして…同じ景色を見詰めている。

歴史によってくたびれた母の体は湯の中、それと反して、小学生になった瞳はキラキラ光る海を見ていた。

三人の晩餐会…一番高い地酒を酌み交わし、缶詰めになる前のカニをたらふく食べた。


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