やくざな主人と生意気ペット
アキラは一人少し離れた場所でこちらを見ていた藤本に近づく。
俺もその後に続く。
「持ってきてくれました?」
「当たり前じゃない」
少し高めの声が静かな倉庫に響く。
眼鏡が藤本の表情を隠しているが、きっと笑っているのだろう。
「僕はあいつらみたいな醜い人間じゃないもの」
藤本が顎で示すのを振り返って見れば、先ほどの連中はいつの間にかいなくなっていた。
代わりに白い粉や葉などが散乱していた。
「それに僕、お得意様でしょ?」
小柄なくせに生意気な態度に内心腹が立つ。
「藤本、とかいったか」
「何なの?」
俺が話しかけると明らかな敵意を向けられた。
アキラとの差がありすぎやしないか?
「お前、音楽やってんだろ?」
「へぇ、お兄さん詳しいね。僕らあんま売れてないのに」
藤本は自嘲気味に笑うと興味ありげに細くつり上がった目で俺を見る。
「俺の妹がお前らのファンでな」
アキラの視線が痛いが気にする必要はない。
「妹さん、いくつなの?」
「もうじき十八になる」
「変わってるね、若いのに」
「素直に喜んだらどうだ?」
「喜べてたらこんな所にいないっつうの」
大袈裟に肩を竦める仕草が童顔の藤本を余計に若く見せる。