今も恋する…記憶
古い傷あと
「初めまして、菊池と申します。よろしく!」

一人一人に名刺を渡し……挨拶をしている。


さくらの前にも現れ名刺を差し出した。


菊池は、さくらの存在に気付いたのだろう…

一瞬だが菊池の目が驚き…さくらは、それを見逃さなかった。


偶然の運命なのか………
それとも、悪魔の仕業か…わからない。


さくらは再び菊池に出会ってしまったのだ。


でも、二人はおくびにも出さずにやり過ごし、明日も訪れる約束をした。


又明日、ここに来れば菊池に会える。


そう思うだけで、嬉しくて後の食事が楽しかった。

ホテルに着いた時には、クタクタに疲れていた。


さくらはそのまま、ベッドへ横たわり、天井を見上げていた………


そこには菊池の顔が浮かんでは消えた。


疲れているのに眠れない。その天井に張り付いた菊池の顔が取れない。


さくらにとってはこの偶然はとても辛いはず…


古傷にも似て痛みが湧いてきた。

ズキンズキンと、身体の芯から痛みがした


『あっ、そうやわ。

あのひとに貰った名刺があるわ。

たしか、バックに入れたはずやけど!』

バックの中には、菊池の名刺が入っていた。



手に取ると、菊池の匂いがし、さくらはその匂いを嗅いだ。


『こうして、頬にあてたら痛みが少し、薄れていくような気がするわ』


『あのひとの匂いや、
ほんまもんやわ!』


しばらくしたら、
名刺の裏に字が見えた…


『今日はとても驚きました
さくらに再会できるとは、思ってもみなかった。


ほんまに会えて良かった。嬉しかった。


ぜひ電話がほしい…

電話をくれる迄局にいますから!』


さくらは読み終えて………ぼう-と、ベッドの上に座っていた。


『今さら…
会ってどうなるん!』


さくらは揺れている。

揺らぎ、ゆらゆら、ゆらゆらと…


胸の奥にしまっていた埋み火がうずいた…


その上に被さった灰をかきわける勇気は無い…


『今のままで、ええ。

波風たてたら…あかん…。

時々恋しいと思える人がいたら、ええのん!』





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