今も恋する…記憶
最初の別れ
電話をして菊池の声を聞いたら…

きっと会いたい気持になる

菊池に会ってしまったら…

『自分を
見失うかもしれへんし』


さくらは自信がない。夫や子供がいるからではない。

菊池と別れてからも、菊池はさくらにへばり付いていた。

誰でも、初恋とはそのようなものかも知れない。


しかし、さくらの場合は違う…


初恋といっても、二人で愛を育てたというわけでもなく、

いわゆる、さくらの片思い。

それでも、今日まで忘れかねているのは、何故だ。


理由は不明だが…

ただひとつ、わかっているのは、好きだったということ。


そして今も好きだということ…


その菊池に初めて会ったのは、さくらが18歳の時。


彼はバリバリの新聞記者だった。

アルバイト学生だったさくらは…

職場にいた菊池を一目で好きになってしまった。

社員食堂で同席したことがきっかけとなり、


やがて菊池が時々、食事やお茶に誘ってくれるようになっていた。


しかし、それ以外には付き合うこともなく、

菊池はさくらを妹のように可愛いがってくれたというだけだ。


そうされれば、されるほどさくらは辛い。


手の届くところに、恋しい男がいるのに手のひとつも握らない。


そんな酷なことがあるものか!


さくらは、悩み抜いたあげく、別れることにした…


さくらが、勝手に恋をし、勝手に片思いの恋に失望したというところだ。


菊池はきっと、めんどうな小娘はごめんだと思ったに違いない。


青い実もおいしくないし、社内の噂も気になったのだろう。


勝手に片思いの初恋は終わりを迎えた…


その日は、少し遠出をした菊池が電車に乗って行こうと言い出したのだ。


二人で神戸駅まで電車に乗った。


歩いたのは新開地だ。少し暗かったが、その町はレトロな雰囲気をしていた。


その町の細い路地にある喫茶店に入ったのだが、菊池は最後だとは知らない。


さくらだけの思いだ。

『今日が最後の日、初恋は敗れたりや!


そやけど、これで菊池を目前にして、切ない思いをせんでええわ!』




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