【短編】限りなく虚無に近い黒
財布を盗まれたソイツは憤り、誰彼構わず疑いまくった。


ソイツの友人はもちろん、僕も疑われたし、全員疑われ、挙げ句持ち物検査までされた。


けれど財布なんて出てくる訳もなく、実は狂言なんじゃ。なんて言う奴もいた。


ソイツの怒りが収まる事はあるわけもなく、当然のように喚き散らしながら暴れ始めた。


クラスメートは皆それを止める事はせず、ただ誰かが止めるのを待つように傍観するだけだった。


僕はと言えば、着替えを済ませ、机に座り半狂乱になりながら暴れるソイツをぼうっと眺めながら、いつこの騒動は終わるのか考えていた。


「てめぇら、しらばっくれてんじゃねえよ!!」


誰かの机を蹴り倒し、クラスメートに向かって声を張る。


「誰かなんとか言えよクソが!!」


ソイツはクラスを憎々しげに睨み回し、疲れたのか、それともまた暴れる力でも蓄えてるのかはわからないがそれから静かになった。


そしてその沈黙を待っていたかのように小さく、本当に声の発信が小さすぎて分からないくらいの声で誰かが言った。
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