きゃっちぼーる
 一哉は恵から眼を逸らしてはいけないと思っていた。
 
 何年も幽霊をしてきた中、除霊されかけた経験もある。

 油断などできなかった。

 恵は口を一文字に結ぶと、滑らかな曲線を描くその肩を僅かに揺らした。

 一哉は、雪の中に薄着で放り出されたような恵の震え方を見て、かゆくもないのに頭をかいた。

 恵をいじめているような気分になって、強張っていた体から力を抜いた。

 そして、なんとか説得するための言葉を探そうとした時だ。

 一哉の頭の中に、絶叫が飛び込んで来た。





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