いちえ
「ねえ、私大丈夫だよ?」
慌ててそう声を掛けるも、瑠衣斗は腕を掴んだまま前を進む。
背後から聞こえてくるみんなの声が、遠い空間に思えて縋るように振り返ってみると、後を付いてきていたらしいももちゃんが踵を返して戻って行く様子が見えた。
そんなももちゃんにまで、助けを求めたくなってしまった。
「大丈夫でも大丈夫じゃなくても寝るぞ」
「えぇぇ…」
どのみち、私の意志は関係ないらしい。
瑠衣斗ってたまに、こうして変な時がある。
こうして、私を心配しての事なんだろうけれど、それがどうも意識しずにはいられない。
ドキドキと暴れる鼓動を、抑えようにも抑えきれず、口から心臓が飛び出してくるんじゃないかとさえ思う。
握られた腕に、無駄に意識してしまい、抵抗もできない程に意識が拡散していく。
連れられるがままやって来た場所は、宗太や龍雅達とは違う部屋で、同じ並びにある部屋だ。
同じように、客室とは分かるにしろ、今起きている状況に言葉を発する事もできない。
そんな中、瑠衣斗は躊躇する事もなく扉を開いてしまった。
催すように部屋へと促され、危ない足取りで部屋へと入った。
「荷物。何かいるか?」
目の前は真っ暗で、廊下から入ってくる灯りでようやく視界が分かる程度だ。
「い…いら…な…い…」
言い切ると、途端に室内の照明がつけられ、それに驚いた私はピクリと体が揺れる。
やだもう!!意識してるのバレちゃう!!落ち着け〜!!
ほんの少しだけ、心の片隅に、ちょっとだけ2人りきりになりたいな〜。
なんて思っていた事を、今この瞬間で全力で取り消した。