いちえ
「そうか。…ところで、唯ノ瀬さん」
「は、はいっ」
てっきり、瑠衣斗へとそのまま言葉が続けられると思っていた私は、慌てて背筋を伸ばす。
話の内容も全く分からないし、瑠衣斗の言っていた言葉の意味を必死に考えていた所で、私の思考は現実へと戻される。
ドキドキと強張っているであろう私の顔を見つめると、やっぱり穏やかな笑顔で橋田先生が見つめる。
「コイツの相手は大変だろう?」
「えっ?…あ、はい」
素直に頷いた私を見て、橋田先生が豪快に笑う。
そんな私に対して、ハッとして恐る恐る視線をチラリと向けた瑠衣斗は、やっぱり私を睨んでいた。
「大変なのか」
「う…?」
「即答じゃねえか」
「…ねえ?」
瑠衣斗のご機嫌が斜めになってしまい、余計にハラハラしてしまう。
でも、橋田先生の言う通りだと思うんだもん。
「いつまでも、手を離してくれないみたいだしなあ」
私が瑠衣斗に凄まれている所へ、橋田先生が笑いながら会話に入ってくる。
やっぱりそう思わずにはいれないよね……。
次こそ恥ずかしくなってきてしまい、顔がだんだんと熱くなってくる。
しっとりと汗をかいていた私は、すっかり涼んでいたはずなのに、再びじんわりと汗が噴き出してくる。
「お前が言ったんだろうが。忘れてんのかよ」
「お?そうだったなあ」
わざとらしく答えた橋田先生に、瑠衣斗は深くソファーにもたれ掛かる。
その横顔は、何だか少し照れたような、怒っているような、何だかとても子供っぽい表情だ。
「本当にお前は…瑠衣は変わったなあ」