いちえ




脱力感でいっぱいな私は、頭の中が真っ白になっていた。


橋田先生の言葉は、衝撃的な物でもあり、まるで私の気持ちを見透かしているようで。


でも不思議と、嫌な気持ちは一切なかった。



「そうだ。唯ノ瀬さん、卒業アルバム見たい?」


「見たい?とかそーゆう余計なモンいらねえから!!」


「じゃあ〜…瑠衣の起こした問題の数々を教えてあげようか?」


「どーせなら良い事教えろよ!!俺はそんなに問題児だったか!?」


「強いて言うならば…頭の良い不良だったな」


「…激しくかっこわりいな。ソレ」




坂道を転がるような話の展開に、切り替しがついて行かない。


曖昧に笑う事しかできなくて、2人の言い争い…話を聞く事しかできない。



そんな中、頭に浮かぶのは8月の冷たい雨。


脳にこびり付いたままの鮮明な記憶が、チラチラと姿を表す。


私は今まで、どうしてこの人生を生きてきたのだろうか。



確実に分かる事と言えば、それはそこに、自分の人生には自分の意志なんて全くなかったという事。



「卒業アルバム持ってこようか」


「いらねえ。うちにある」




ただの自己満足…。それは分かっている。分かっていたんだ。


衝撃的な言葉ではあっても、それは答えではない。


答えは自分で出すもの。


どう生きるかは、自分で答えを出す事。



さすが、学校の先生だな…なんて思った所で、ようやく私は笑えた。




「卒業アルバム、見たいです」
< 398 / 525 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop