いちえ
そんな私の言葉に、対照的な反応をする2人。
いたずらっ子のような満面の笑顔の橋田先生に、心底嫌そうに思い切り眉間に深い縦皺を寄せた瑠衣斗。
そんな様子が可笑しくて、そして、ようやくいつものような調子を取り戻した瑠衣斗に、ムクムクと意地悪心が芽生える。
「先生、るぅはどんな生徒でした?昔から愛想悪かったんですか?」
「愛想悪いってもんじゃなかったなあ。もう常に、般若の仮面でも被ってるようで」
「俺はどんな中学生だよ。歩く能面か」
私の知らない、今よりも少し幼い瑠衣斗。
時々瑠衣斗に邪魔されながらも、橋田先生は楽しそうに私に瑠衣斗の数々の悪事をバラしてくれた。
それでも、不器用で、無愛想で、私にはよく分からない瑠衣斗も、本当はとびきり優しいと言う事は、先生も十分に分かっていたのだろう。
すっかり頭を抱え込んでしまった瑠衣斗は、本当に立派な不良だった。
初めて声を掛けられた時の、あの容姿も、今なら納得できてしまう。
でも、頭の良い不良がイメージできない私は、ふとそれが瑠衣斗なんだと気が付くと、何だか可笑しくてこっそり笑っておいた。
「何だか私、本当に変な人と入学早々知り合いになっちゃったんだね」
「変な人…俺かよ」
瑠衣斗の悪事をバラして、スッキリしたような橋田先生が、楽しそうに私達を見つめる。
たくさん瑠衣斗と衝突して、それでも瑠衣斗と向き合い続けてきたのが、橋田先生だったからこそ、今の瑠衣斗が居るのかもしれない。
閉じかけていた瑠衣斗の心を、橋田先生が優しく開いてくれたように感じた。