いちえ
突然変わったように思えた瑠衣斗は、何かに迷い、悩んで、1人で抱え込もうとしていたように、今ではそう思えてならない。
頑固の代名詞のような瑠衣斗の閉じかけていた心を、橋田先生は開いてくれたのだ。
「中見てくか?」
「う〜ん…そうだな。久しぶりだし…ちょっと回ってくる」
瑠衣斗の言葉に、橋田先生はニッコリと笑う。
深く刻まれた笑い皺に、物凄くホッとしてしまう安心感がある。
繋がれていた手を引かれて、瑠衣斗と共に立ち上がる。
「扉はもう壊さないように」
「こっ…!?壊さねーよっ」
へえ〜…暴れん坊だったんだ。
普段からどこでも寝たりするくらいボーッとしてるから、イメージできないなあ。
チラリと私を見た瑠衣斗が、後味の悪そうな顔のまま視線を逸らす。
そのままぐいぐいと出口に向かうので、私は慌てて橋田先生を振り返った。
「あ、行ってきます!!」
「ごゆっくり〜」
手を振ってにこやかに笑う橋田先生は、あっという間に扉の奥へと姿を消してしまった。
しんとした廊下を、ずんずんと進み続ける瑠衣斗と、私の足音だけが響き渡る。
足の長い瑠衣斗について行くのに必死で、そのうち息が上がってしまう程だ。
「ちょっとるぅ、歩くの早いっ」
「え?あ、ごめん」
ようやく速度を緩めてくれた瑠衣斗に、私はふぅと息を付いた。