いちえ



「ねえ、橋田先生、私好きだな」


ポツリと何の気なしに言った私の言葉に、横を歩く瑠衣斗が私をじっと睨む。


えぇ…?な、なんで睨むかな……。



睨まれる意味も分からずに、戸惑う私に向かって瑠衣斗が重く口を開く。



「好きとか言うなよ」


「…はっ?!」


「だから、好きとか言うな」




はい?意味が分からないんだけど。



そんな私に対して、視線を外した瑠衣斗は、呆れたように溜め息を吐く。


そんなに呆れちゃうような事、私言ってないよねえ?



「俺は好きって言われんのに、何年かかったと思って……」



ポツリと独り言のように言う瑠衣斗に、私は驚いて顔を見上げる。


その横顔は、拗ねているような怒っているような、少しムッとした顔だ。



「何年…かかったんだっけ」



何も考えずに、自然と口から出てしまい、思わずハッとして口を噤む。


何だか私、自惚れてない?

好きとは言ったし、言われたけど…何だか微妙な関係なままだと思うし……。



「…教えねえし」



そんな瑠衣斗の言葉に、驚いて顔を上げる。


私はもっと、自分だけ1人で傷付くような言葉を想像していたからだ。



考えすぎ…?でも…私達って、付き合ってるの?


私は、やっぱりこだわり過ぎてるだけなのかな?



「昨日の夜の事…るぅ覚えてないの?」



確かめたい。でも、違うよって言われるのが、本当に怖かった。
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