いちえ
「…夜?」
何のことだか分かっていないような瑠衣斗は、きっと覚えてないのだろう。
そんな瑠衣斗に、意味ありげにニヤリと笑って見せた。
途端に、更にさっぱりと訳が分からないというような顔をした瑠衣斗に、私は頷きポツリと口にした。
「やっぱり酔いすぎて…覚えてないかあ…」
「……え!!俺何か言ったのか!?」
「……ねえ?」
「だからそれ止めろ!!」
勿体無いから、瑠衣斗本人にも教えないでおこう。
あの時の言葉を思い返すと、嬉しくて頬が緩む。
心がギュウって、嬉しさに震えるんだ。
無意識でも、そう言ってくれて…本音だと思うから、余計に嬉しい。
「るぅには絶対教えない」
「教えないも何も、俺が言った事だろう」
「そうだけど?」
「そうだけど…って…ぐあぁ…飲むんじゃなかった……」
瑠衣斗はどう思っているのだろう。
まさか本当に…流れで…と言う訳ではないのだろうけれど。
肝心な時に、何も言えない自分に、心底落ち込む。
怖いから。傷つきたくないから。ずっと、傍にいたいから…。
その願いが、崩れてしまうんじゃないかと思ってしまうと、やっぱり何も言えなかった。