小悪魔は愛を食べる
「ひとり?」
「んー。デートしてたの」
「誰と?」
「ナンパしてきた人と」
「ふうん。で、今は一人?」
「うん。実はね、帰ろうと思ってそこの歩道歩いてたら倉澤くんっぽい人が見えたから来てみたの。そしたら本当に倉澤くんだったね。ちょっとびっくり」
肩をすくめて経緯を教える芽衣に、言われてみれば窓側のこのテーブルは外から丸見えだという事実に気付かされ、成る程と納得した。
歩道を行きかう人達を見下ろしながら、絢人がメニュー表を芽衣に手渡す。
「好きなの勝手に頼んで」
「え、そ、それって、倉澤くんは帰るから後は好きにどうぞって意味?やだ駄目!食べ終わるまで居てよ?ね?」
「違う。奢るから好きなの食べろって意味」
「あ、そ、そっか。勘違いしちゃったぁ。んーと、何にしようかな。ハンバーグ…グラタン……うーん…ハンバーグ?あ、でも最近ちょっと太り気味な気がするし…でもハンバーグ…卵のってるやつ、おいしそう。うーん」
ぶつぶつ言いながら真剣にメニューと睨めっこしている芽衣に、くすりと鼻先で絢人が笑った。
芽衣が視線を向ける。
「なに?」
「いや、華原みたいな子でも太るとか気にするんだと思って」
「えぇー気にするよー。普通じゃん。倉澤くんの彼女…って、あ。初音ちゃんか。ね、初音ちゃんだって太るとか肌荒れとかそういうの気にするでしょ?スタイルちょーいいもんねぇ。わたしもあれくらい胸とかあったらなぁ…」
思いをはせる芽衣の容姿を無遠慮に見遣り、初音は肌荒れも太りもしない体質だと自ら言っていたのを思い出す。