小悪魔は愛を食べる
「初音は太らない体質みたいだからね。結構食べるよ、細いくせに」
テーブルと顎の間に腕をつっかえて絢人が教えると、芽衣が眉を寄せて唇を尖らせた。
「なにそれずるーい。卑怯だぁ。わたしも太らない体質とか言ってみたいよ。はぁ…」
「けど華原も細いよ?華奢だし、小さいから初音より細く見える」
「うぅー。けど太るとやっぱぷくぷくするもん。二の腕とか、お腹とか」
「ああ、可愛いね。それ」
ぷくぷくした芽衣を勝手に想像して、絢人が笑い声を立てた。昔飼っていた子猫が太った時の姿を思い出したのだ。その子猫もやはり腹部と足の付け根に肉がついていた。
「ハンバーグ食べなよ。俺、ぷくぷくした華原見てみたい」
「うわ。デリカシーない人だなぁ、倉澤くんは。けどハンバーグ食べたいから頼んじゃお。えっと…」
きょろと視線が戸惑い、絢人に走る。
ああ、と絢人は端っこの呼び鈴スイッチを指差した。
「ここ」
「ありがとうございます」
丁寧に礼を言い、芽衣の指がスイッチを押す。
ピンポーンと遠くの方で鳴った。
それを待って、絢人の手が、芽衣の指先を摘んで引っ張った。
「女の子って、こういうの好きだね」
「え?ネイル?」
「うん。初音はしない子だったけど、俺の妹がすごく好きなんだよね。こういうの」
「倉澤くんて妹いるの?」
「いるよ。親、離婚したから苗字違うけど」
離婚という単語に芽衣が苦笑とも自嘲ともとれる曖昧な笑みを浮かべる。しかしふっと顔を上げ、絢人をみつめた。