小悪魔は愛を食べる

「妹、可愛い?」

「さぁ。可愛い方なんじゃない?」

「倉澤くんに似てる?」

「似てない。親父にそっくり」

「あははっ。じゃあ可愛いね。女の子って、お父さんに似たら可愛いっていうもん」

「へぇ。なら華原も父親似なんだ?」

何気ない一言。暗に可愛いと言ったつもりだったそれが、芽衣にとっての大きな癌だということに気付いたのは、一種の勘だった。
空気が麻痺したみたいに動かない。芽衣の視線は冷え切ったまま、上総が残していったクリームソーダのグラスから滴る水滴をみている。
やがて、唇が、動いた。

「ね、さっきから気になってたんだけど、このクリームソーダって倉澤くんが飲んでたの?」

「いや、妹の。華原が来る少し前まで一緒だったから」

「えー!うそー!見たかったなぁ倉澤くんの妹ー。あ、わたしの予想ではね、絶対綺麗系だと思うんだよね。倉澤くん、綺麗な顔してるし」

「だから、似てないって」

「いやいやいや。なんかそんな気がする」

なんでもないように無邪気に子供くさく笑って、問いをなかった事にした芽衣に、感心する。

訊くな。というのを、ここまであからさまに晒しておきながら、ちっとも嫌な空気にしないのが、すごいと純粋に思った。

絢人が自分の薄い唇を舐める。
触れていた手で、指先から指の股までをゆっくり、丁寧になぞる。性感帯を探すようないやらしい触り方に、芽衣の肩が竦んだ。
可愛い。この生き物は心底可愛いと、目を細める。

「失礼します。ご注文、お決まりでしょうか」

ばっと、芽衣が手を引いた。素早さに、絢人が上体を傾けて笑う。
割り込んだ店員は何か気不味そうに視線を浮かせながら、ぼそぼそ注文を言い出した芽衣に頷いていた。
ハンバーグとアイスティーを頼んで、メニューを閉じると、店員が一礼して去る。
芽衣が絢人に視線を戻した。

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