幻妖奇譚
「すると……、ご主人が昨夜帰宅した時には、奥さんの姿はすでに無かった……と言う事ですか?」

「はい……妻は専業主婦で、無断で家を空けた事は、結婚して今まで一日とありませんでした」

「失礼ですが……家出の可能性は?」

「!? いいえ! ……もし、家出だとしても娘を連れて行くでしょう。こんな……まだ小さな娘を置いて逃げる様な、妻は……妻はそんな女ではありませんよ!」

 パパたちがなにをはなしてるのか、さきにはわからない。

 だけど、パパがおっきなこえをだしたから、さき、びくってこわくなったの。パパが、こわいおじさんたちにいじめられてる。どうしようって。

 ……あっ!さきのたからもののフワフワのくまさんを、パパにかしてあげよう!

 さきのくまさん、つよいんだから!パパをいじめるおじさんたちを、くまさんに、めっ!してもらうんだ!


「パパ……パパ! くまさん! くまさんが『だいじょぶだよ』って!」

 いっしょうけんめいにぴょん、とはねるけど、パパはくまさんをなでて、それから、さきのあたまをなでた。

「沙希。パパ、大切なお話してるんだ……。いい子だから、くまさんと向こうで遊んでおいで?」




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