幻妖奇譚
 パパがゆびさしたばしょは、ママのやさしいにおいでいっぱいのおへや。


「……うん。くまさんいこっか」


 おとなってわかんない。パパのいたそうなおかお……なんで、いやなのにがまんするのかな?

「くまさん、おすわりしましょうね」

 ママとパパのベッドにくまさんをすわらせて、びよういんごっこ。

 ママがいつも『触っちゃダメよ』っていうキラキラのたからばこ。

 ゆびわをゆびにいれてみるけど、ぶかぶか。

 それでもちょっとおねえさんになったきぶんで、わくわくする。

 かがみのまえのイスによじのぼってすわる。

ひきだしのなかには、ピンクいろのおみずがはいったかわいいビンに、ママがキレイになるまほうのどうぐ。

 ピンクのビンのふたをあけて、おしてみる。

 プシュッ

「あっ! ママのにおいだ!」


 イスからおりて、くまさんにもかけてあげる。マクラやカーテンにも。

 ママがすぐちかくにいるみたい。……でも、ママはいない。

「ママ、どこまでおでかけしちゃったのかな……」

「……き」

 くまさんにだきついてて、よくきこえなかったけど、だれかのこえがした。




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