今宵、月の照らす街で
「属性は“水”ですか」


波動の色は“気”を表す。その事実には例外は無く、古来から確立された事実。


「…だったら?」


気を見抜かれる事に、術師にとっての致命傷は存在しない。


術師にとって、波動の発現は一つの素質。それも、遥かに高度な。


常時発現する波動…気を敵に読まれても、それをものともしない戦術でカバーするのが、一流たる陰陽師、もしくは退魔師だった。


それは霞結衣とて例外ではない。


「属性は“水”。特性は治癒。でも特性が全てじゃないよ」


結衣の言葉に、“陰”は解せない表情を浮かべる。


「霞家は“須佐之男[スサノオ]”…即ち小龍沢の分家。どういう意味かわかる?」


右手を前に伸ばし、人差し指を軽く振る。


「大気に含まれる水分も、私の支配下にあるってコトだよ」


“陰”の周囲に、輝く粒子が散らばった。


「…まさかっ!!!」


その正体に気付き、焦りの表情を浮かべた時には、結衣は背中を向けていた。


「ダイヤモンド・ダスト」


結衣の声と同時に、“陰”が氷柱に捕われる。


その姿は、苦悶を浮かべた標本の様に動かない。そして、パリン、と音を立てて、“陰”と共に崩れた。


「だから闘いは嫌いなの…私の使う術には、慈悲がなさすぎるから…」
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