今宵、月の照らす街で
「一瞬…あれが、三柱」


女が髪をかき上げ、多香子の去った後を目で追いかけた。


「でも、あなたたちがこれじゃあね」


女と闘う結衣と杏里は、既に消耗した様子で、肩で息を続ける。


「く……そ…!」


杏里はもはや膝を付き、地面に視線を落とす。片手を即座に口に持っていくと、手から血が溢れ、指の隙間から滴り落ちた。


―――赤い…!動脈血………か………!


激しい腹痛も重なり、杏里の意識が飛びかける。


「あ…杏里!」


結衣の声に顔を上げる。


そこには、間合いを詰めた敵の姿があった。防ぐ術を持ちながら、防ぐための時間もない。女の蹴りが無情にも脳を揺らし、杏里は崩れ落ちる。


「宗家が強くても、分家がこれじゃあね…」


「舐めないで…!」


結衣が歯を食いしばり、駆け出す。女は髪をもう一度かき上げ、腰を落として身構える。


結衣は陰陽術師。体術を陰陽術に組み込んだ退魔師とは違い、全くと言っても過言ではない程、直接戦闘に特化していなかった。


それを敵は認識していたせいか、間合いを詰める結衣の行動が理解出来なかった。


ただがむしゃらに、策も無く、怒りに身を任せて突撃して来た。


そう判断し、むしろそのレベルの低さに溜息まで漏らした。
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