今宵、月の照らす街で
壱番隊の現場検証が始まる。


数分前まで戦場だった場所は捜査現場へと顔を変えていた。


成二は、まだ眠る師の隣に座りながら、ただの視覚情報として漠然と捉えていると、穏やかな陽射しを遮る影に入った。


「千鶴さん」


「…辛かったわね、成二」


千鶴の言葉に何も返せない。


上手くは言えないが…言葉が見つからなかった。


「西蓮地も本望だったんじゃない?本当の安らぎを得られて、さ」


そう言う千鶴を見上げると、少し物憂げな笑顔が見えた。


「俺は…どんな形であれ…」


無心なままで、口を開いていたが、その先の言葉が出ない。


むしろこのまま言葉を紡いでいたらどんなに楽だっただろう。


この先の言葉を知りながら吐くのは…怖い。


俯くと同時に、ケータイの音が鳴る。千鶴は落ち着いてケータイを取った。


「もしもし…」


一度、視線を成二に落とした後に、千鶴の黒い瞳が大きくなる。そして、成二の聞いた事がある名前を口にした。


「キサラギ?」
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