【短】きみに溺れる
「あ、そうだ。こんどのお正月は地元に帰るの?」
突然、さやかさんは無邪気な少女のような顔になり、たずねてきた。
私が「さあ…」と首を振ると、
「久しぶりに生徒会のメンバーで集まりましょうよ。
みんな地元を離れてるけど、お正月なら帰ってるだろうし」
何を言いだすんだ、この人は。
さやかさんのいる場所でレンに会うなんて、考えただけでも鳥肌がたつ。
断るための理由をさがしていると、さやかさんは私をまっすぐに見つめ、最高の笑顔で言った。
「レンもこんどのお正月は、私の実家で過ごす予定だから」
「………」
なぜ、この女が
この世にいるんだろう。
憎しみとも呼べる感情が唐突にわき上がり、世界が黒く染まった。
レンの子どもを妊娠し、中絶した人。
レンにその罪悪感を植え付け、守られ続けてきた人。
レンが私を抱いた後、必ず帰る場所にいる人。