Bitter Love〜苦くて切ない恋〜
「ねえ、中沢さん」

心配そうな顔をする中沢さんに、声をかけた。

「芯から聞いたんですけど、中沢さん、フランス語の通訳をやっているんですって?」

話を反らすために、口に出した話題。

罪悪感を消そうとするために出した、話題だった。

「何だ、知ってたのか」

中沢さんが照れくさそうに笑った。

あたしは、ホッと安心感を感じた。

芯のことなんて、もう聞きたくなかったから、とっさに出した話題。

中沢さんは、乗ってくれた。

「フランス語で、“愛してる”って、何て言うんですか?」

あたしは聞いた。

「フランス語?」

あたしはうなずく。

「知りたくなった」

そんなあたしに、中沢さんは嬉しそうに微笑んだ。

「いい?

言っても」

あたしはうなずく。

「ジュテーム」

中沢さんが言った。

「ジュ、テーム?」

返すように、あたしは言った。

「フランス語で、“愛してる”。

ジュテーム」

ジュテーム。

忘れないように、あたしは何回も小さな声で言った。
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