other contract
「とりあえず、相手が出来て良かったじゃん」
「命拾いしたな」
と葵も紅も口々に言うが、どうも俺はそう思えんかった。
だって、華に“契約”の事とか仕方とか教えとらんから、何も分からない状況でやったちゅうわけであって‥‥。
俺、どうすればええんや?
こんな事、華に面と向かって説明するのも難やし。
かというて、そのまま放ったらかしにするわけにもいかんし‥。
それに、
『前世』の一軒もあるんや。
「そう、簡単にいくとは思えんがな」
「大丈夫、成るように成るって」
「成るように成んじゃねぇの?」
目の前にいる二人は、コーヒーを手にして笑って言った。
ん~、確かに、成るように成るんやろか。
でもなぁ、ただの“吸血鬼”と“特別”な存在やったらええものの‥‥、
俺は『前世』の記憶があるし、
華は彼氏がおるんや。
下手な事出来へんな‥‥。
そう肩を落とした俺に、葵も紅もポンッと手を乗せてきた。
励ましてくれてんねやろ?おおきにな。
そう言いたいのは山々なんやけど‥‥、ゴメンなぁ。
その手、今は俺にとって、
ただの重みとしか思えへんわ‥‥。
2人と別れてから俺は、華にとりあえず、遠まわしにでも“契約”の事を話そうと高校の校舎へ向かった。
時刻は午後7時前。
もうすぐ秋のこの季節は、今頃が綺麗な夕焼け時刻や。
橙色の夕日が差し込む階段を上って行くと、誰かの話し声。
ケータイを片手に話とるそいつの顔を確認すれば‥‥
「花の、彼氏か?」