Happy garden.【短編】
このまま、男の後を追わずに、自宅に帰ってやろうかしら。
歩いて5分ほどのところにわたしの住んでるアパートがある。
でも、逃げだしたと思われるのは癪だし、この男について来られても困る。
仕方なく、男の一歩後ろをついて歩いた。
公園を抜けて、右に曲がる。
あ、うちと同じ方向だ。
歩いて行けるようだし、もしかしなくても、ご近所さん?
公園の前の道には飲み屋さんなどの小さな店が立ち並び、その前を通って、次の信号で左に曲がる。
それも同じ。
歩きなれた道なのに、今はそれが逆に落ち着かなくして、キョロキョロと周りを見てしまう。
すると、男がいきなり振り返った。
「そういや、おたく、名前なんていうんや」
「おたく? わたしのこと?」
お宅って普通、家をさす言葉よね。
関西弁ではそこに住んでる人もさすのかしら。
耳なれない言葉に戸惑ってしまう。