ハイスクールラブ
「ひでえ話だよな・・・。そいつが目をかっ開いて紘季の方を向いて押しつぶされて死んでた。紘季はずーっと・・・救助されるまでずっと目を反らせないでそいつの死に様を見ていた・・・」

真奈美は両手を握り締めた。今聞いている話が本当にあったことで、それが紘季に起こった事実だということが信じられないでいた。

足が震える。今まさに車に乗っている自分と頭に浮かんだ事故のシーンが重なる。

「紘季は助かって・・・そいつと後続車の運転手が死んだ。トラックの運転手は居眠り運転だったんだ。しばらくは紘季も入院して、体は思ったよりひどくなかったけど、心の方がさ、もうめちゃくちゃ。ひどかったよ。

夜中にそいつを探しに行くって言って出てったり、トラックの運転手を殺すって言って包丁持って帰ってこなかった時もあった。一番多かったのはそいつの墓の前で動かないでいつまでも座ってんの。雨の日も、すごい大雪の日も、夏の炎天下の日も」

真奈美は胸が苦しくてこれ以上聞いていられないと思ったが、これが自分が知りたいと思っていた事実だと言い聞かせ、目をそむけてはいけないと思った。

「そいつがさ、数学の先生になるっていって大学通ってたんだよ。事故の後、紘季が大学行くって言い出した時はみんな驚いたよ。すげえ馬鹿でさ、数学なんて一番縁遠いような人間がいきなり大学行って数学の教師になるって言い出したもんだから」

話しているうちに、車は高速を降り、高尾山が近くに見えた。

「目標を見つけて頑張っているうちは良かった。あいつの分も生きてやるって燃えてたんだよ。俺らももう紘季は大丈夫だなんて安心したりして。けどさ、念願かなって教師になってしばらく経って、気がついたんだな。こんなことしたってあいつは戻ってこない、あいつにはなれない・・・」

真奈美はそこであることに気がついた。

「もしかして・・・その人の名前って・・・」
「名前はハルト。辻村春人」

真奈美の心臓がぎゅうっと縮む。

(辻村・・・!)

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