僕の中の十字架


サエは頭を抱えて蹲っていた。


小柄な体が更に小柄に見えた。
足元のぼくの影がやけに黒かった

そのまま影に沈んで消えたらどうしよう。




寒気がした。
最初から気付いていればよかった。

今日、サエの心はずっと悲鳴を上げていた。



「サエ?」


「…………」



名前を読んでも顔を上げなかった。
代わりに、肩が震えた。

サエが怖がる人は、此処には居ない。



「大丈夫?」



やはり応えなかった。
ぼくはサエの隣に座った。


サエの肩が小刻に震えた。サエは泣いていた。



誰だってそうだろう、目の前で泣かれたら偲び無い。

ぼくがもっと強ければ泣きたいだけ泣かせてあげられるのに、ぼくは弱い。

ぼくも泣きたくなる。
だから泣かないで欲しい。


サエの頭を撫でてやると、サエの冷たい手がぼくの手を掴んだ。



「ね、クロ………」



空気を震わせてぼくの耳へ届いた声は、何時ものサエの声ではなかった。



「ん?」


「わたしってさ、必要無いのかな」


「…………………」


「昨日、ママに言われたんだ。……………ははは」



無理して笑おうとする声。
胸が締め付けられた。
サエの母親に怒りを覚えた。







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