liftoff
「さ、Thank you」

そう呟いて、にこっと笑って見せると、彼は、ふんっ、と言わんばかりに勢いよく振り返って、そのまま、またぷりぷりしながら、奥へ引っ込んでしまった。

ウエイターは、彼が好きなのね。きっと。

そう勝手に理解して、わたしは、食べ始めた。
もう一杯のピニャコラーダは、手をつけぬまま。
グラスが汗をかいて、その雫が、テーブルを濡らしている。途中で手を止めて、思わず、グラスに手をやる。でも、そのいわれのない贈り物に躊躇してしまって、飲むまでもいかなかった。

知らなかった。わたし、意外と律儀だったのだ。
とにかく、何だかよくわからないこの状況。黙々とチャーハンを食べ終えて、そのまま代金を支払って出ようと思った。

きっと、それがこの場合は一番良いのだーーウエイターも怖いしーー。

「こっちに来ない?」

と、突然、後ろから声が、しかも日本語が、降ってきた。

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