好きだからBLの恋
 程なくして、キッチンのドアが開き、少ししめった髪のまま、ラフな格好に着替えた久音が現れた。
 優子の予想通り、久音は冷蔵庫からミネラルウォーターのペットボトルを取り出したのを風人は横目でこっそりと確認してほっとする。

 しかし、久音は自分の部屋には行かず、キッチンカウンターにあるイスに座ってこっちを見たのだ。

「「「・・・・・・」」」

 3人の間に妙な雰囲気が流れる。
 次の瞬間、ガラステーブルと優子の体の間から何かがにゅっと飛び出して、優子の顔をべろりと舐めた。

「ひやっ!」
「あっ、イチローじゃん」

 驚く優子の顔をそれがべろべとと舐める。

 優子の顔を舐めているのは、久音の犬で、マーブル柄のミニチュアダックスロングの一朗だった。
 久音が帰宅したので、部屋から出てきていたのだ。

「こら、一朗。勉強の邪魔だからこっちにおいで」

 キッチンカウンターから久音が一朗を呼ぶ。
 いつもはご主人様である久音が呼べば、すぐに言う事を聞くのだが、一朗は優子の顔を舐めることに夢中になっている。

「へ~、珍しいの。イチローはあんまり人に懐かないんだぜ。しかも兄貴の言う事しか聞かないんだけどな」
「そうなんだ。可愛い!」

 優子は膝の上に立って乗る一朗を抱き締めた。

「ゆー、俺にも抱っこさせろよ」
「ん、はい」
「お、何だよ。俺んとこえろに来たら急に大人しくなったぞ」
「奏多より僕の方が好きなんだって」
「なんだとー、おい、イチローシッポだけでも振れ!」
「嫌だよ~って、ね、イチロー君」

 すっかり一朗のことに気をとられている双子に風人がハラハラしたように見ていた。
 今のところ、優子は男言葉を忘れていないようだが、いつボロが出るのかと気が気じゃないのだ。

「な、イチローのことはもういいから、レポやらねぇとマズイって! 兄貴」

 風人は久音に救いを求めたのだが、それが悪かった。
 久音は一朗を呼ばないで、自分が立ち上がると、3人の所へ一朗を受け取りにきたのだ。

「すまない。久しぶりに家に人が来たから興奮したみたいだ」

 久音が手を出し、奏多が一朗を渡す。
 しかし、一朗は暴れて久音の手からずり落ちると、トトトと歩いて、優子の膝の上に座ってしまった。
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