好きだからBLの恋
「驚いた。こんな一朗は初めてだ」

 久音以外には見せない一朗の甘えた姿に久音自身も驚く。

 主人の気質を感じて従っているのか、元々の気質なのかはわからないが、一朗は人のそばに近づいて尻尾をふることはあっても、主人の久音以外にはめったにスキンシップをしない。
 しかも、特に女性には近づくことすらせず、散歩中、女性が近づくと逃げてしまうほどなのだ。

 家族の風人には触らせてくれるものの、滅多に膝の上には乗ってこない。
 母親など足元にまとわりつくぐらいで、触らせてもくれないとこぼしているほどだ。

 そんな一朗が優子にだけこんな姿を見せている。
 驚くなという方が無理だろう。

「イチロー君ごめんね。今日はレポートがあって僕は忙しいんだ。また今度遊ぼう?」

 優子はそう言って一朗を久音に渡す。
 一朗はその言葉が分かるのか、尻尾を振りながら今度は大人しく久音の手に収まった。

「邪魔して悪かったね」
「あ、いいえ。レポートがあるのが残念です」
「今度また来た時に遊んでやってくれ」
「はい」

 優子と久音の距離が近くなったことに風人は緊張していたのだが、一朗のことに気を取られていた久音はそれに気づかない。

 しかし、風人が心配しなくても、優子は奏多と並んでいると性別が意識しにくい。
 そのおかげで、近づいても久音は優子の性別に疑問を抱くことはなかった。

 しかし、久音の心に優子の存在を残すことになるのだが・・・・・・・・・。
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