answerS
暮羽さんの目を見る事が出来ずに自分の足下を見てそう呟くと、暮羽さんは少し考えるような素振りをして僕と視線を合わせる為に腰を落とした。


今だから理解できる。

目の前にいる男がいかに異常で恐ろしく、理解出来ない人物であるかと言うことが。



「もしかして勘違いしているんじゃないか?」


意味がわからず、恐る恐る顔を上げると冷たく鋭い瞳で薄い笑みを浮かべる暮羽さんの姿があった。


「殺るのは俺でも俺の部下でもない。お前だよ」


俺が今まで大事に可愛がってきた子供にそんな事できる訳ないだろ…?


まるで何かのジョークのように僕にそう言い聞かせる暮羽さんが

言葉が

なぜ笑っているのか

何を言われたのか

何1つとして理解出来ない。


いやっ違う、

理解したくないんだ。




この人は何を言っているのだろう。



僕に

僕にあの真っ白で優しいチカを


兄を殺した僕に無邪気な笑顔を向けてくれるあのチカを殺せって言うの…?


嫌だ

できない

我に返って口から出てきた言葉はこの二言(ふたこと)だけ。


現実逃避するように何度も同じ言葉をくり返す僕を見て、暮羽さんは意外そうな顔をして小さく笑うだけだった。

< 112 / 118 >

この作品をシェア

pagetop