微熱
「…本当にありがと」

「別に、俺も暇だったし」

「今度お礼するからね」

「高いのはダメだよ」笑いながらユキを見ると、大きな右手で顔を隠していた。


「ユキ?どうか――」


どうかした、その言葉は途中で遮られ、加えて視界が真っ暗になる。
状況を理解するのに時間がかかった。

ユキに、抱きしめられてる。


「ちょっと、ユキ、どうしたの?」

「……失敗すればいいのにって思ってる」

「な、なに?聞こえないっ」

「そしたらまた、俺を頼ってくれんだろ?」

ぎゅうぎゅうに抱きしめられていて、ユキがなんて言っているのかわからない。
ただ、少し抱きしめる力が強くなったり、弱くなったりすることしか感じられない。

「ユキ、本当にどうかした?」

「……お礼、これがいい」

「え、なにがいいの……?」

腕の力が弱まって、ユキの顔が見えた。
今にも泣きそうな顔をしている。
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