彼が彼女になった理由(ワケ)
綾斗と映画に行くのが嫌なわけじゃない。
きっと楽しいだろうし。
でも私、おかしいんだ。
綾斗が誘ってくれても素直に喜べない。

「どうせ暇つぶしでしょ?」
「好きでもないくせに」
「チョコだって本当は要らないくせに」

1年前の出来事から、なんだか私はひねくれてしまったみたい。
綾斗に対して可愛い事が言えなくなってしまった。

私って結構プライド高かったんだなぁ…
食べてもらえなかった事をまだ許せないでいるなんて…



『夏波バイバーイ!』

頭ん中、妄想天国。
気がついたら放課後になっていた。

『バイバイ夏波。 また明日ねー♪』

クラスメイト達は笑顔で手を振り、去っていく。

『夏波夏波っ ちょっと来て!』

帰り支度を済ませた望が私を呼んだ。
何だろう。
不振に思いながら傍に行くと、望の目の前のイスに座るよう指示をされた。

『何? 何かあんのー?』
『いーからいーから!』

望の手にはピンク色の…

『リップ?』

何でそんな物を出しているのか。
その疑問はすぐに解けた。

『ちょ…望!』

望は私のアゴを掴むとリップを唇に塗ってゆく。
それが終わると髪をクシでとかし、制服のリボンを整える。
流れ作業のような望の動きに、ただ黙って目で追うのが精一杯だった。

『せっかくのデートだもん。 頑張って!』

望はそう言って、私の手にリップを握らせる。

頑張れと言われても…
どう頑張っていいやら。

『ほら早く! 綾斗くん行っちゃうよ!』

バーンとお尻を叩かれ、反射的に立ち上がる私。

『また明日ね! いい報告待ってる。』

そのまま背中を押されるようにして教室を出た。
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