陽だまり
「ちょ、っちょっとひな、あれ優喜君じゃない」

「へぇっ?!」

 涼子ちゃんにひっぱられるように、校門まで歩いてたわたしは、驚いて転びそうになった。

校門のところに、女子が遠巻きにして溜まっていた。

その中心にいるのは、頭ひとつでた細い男の子。

さらりとした髪が風に揺れている。


後ろ姿だが、わたしにはそれが誰だかすぐわかった。
この世で一番見慣れた男の子。弟だからだ。

「うそ、なんでっ」

優喜は中学2年。
歩いて15分ほどの学校に通っている。


「だから、姉を待ってるんですよ」

「クラスと名前は? あなた中学生? 生徒手帳だしなさい」

慌てて女子をかきわけて中に入っていくと、生活指導の小泉オバサンが優喜を詰問していた。

よりによって、嫌な奴が中心に立っている。

「す…すみませーん。小泉せんせー!」

「あ、あれですよ。ぼくの姉」


優喜は、あたしの慌てぶりと対照的に、落ち着いた声でけろっと言った。
もう少し、危機感というものを持って欲しいんだけど、姉としては。

小泉先生は、優喜の指先をみた。そこには、女子にもまれるあたしの姿。
ああ、小さいってもどかしい!

「あら、あれはたしか入学したばかりの……えーと……」

「みずきっ、水城陽菜ですぅ……ぜーぜー」

やっとのことで到着して、あたしは自分の名前を名乗る。しかし、どうしても息が荒れて、体をくの字にして立ってしまった。


「水城さん、ちゃんとお立ちなさい。みっともない」

「は…はひ……」

この女子高は意外にも歴史が深い。

その初期の頃に卒業したと言われている小泉オバさまは、とても規律に厳しい。

自分の頃に比べて、校風が乱れすぎていると、ツバを飛ばしていうのという事が、我々入学したての一年の間で、既に有名だった。


「まあ、いいでしょう。水城さん、学校内に部外者は立ち入り禁止ですよ。誰かを待つなら、他の場所でなさい」

「校内には入ってないんだけどなー」と優喜がぼそっと言うので、わたしは慌てて弟の足を踏んだ。


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