愛しい遺書
メールを打ち終わると、何もする事がないあたしはソファーに横になり、昼ご飯の支度の時間が来るまで寝た。

11時にセットしたアラームで目を覚まし、そのまま昼ご飯の支度をすると温かいうちに明生の部屋に運んだ。

――ピンポーン

インターホンを鳴らすと、

「キキ!?」

と明生の声が奥から聞こえた。

「うん!」

あたしも大きい声で返すと、

「鍵開いてるから入って来い!」

と返って来た。

あたしはご飯の乗ったお盆を脇に抱え、ドアを開けた。

玄関に入ってガッカリした。色鮮やかな女物のハイヒールが行儀よく並んでいた。

今日の客は女……。

あたしはいじけそうになる気持ちを押さえてリビングに向かった。

「おじゃまします……」

リビングに入ると、客用ソファーに女、その子の髪を明生と本田さんが二人がかりで自毛に人毛のエクステを加え、腰までの長いブレイドを編んでいた。本田さんはあたしの方を見ると、笑いながらペコッと頭を下げ、「お疲れ」と言った。あたしも笑いながら「お疲れさまです」と言ってキッチンに向かった。

お盆をテーブルに置き、シンクに置かれた使用済みのマグカップやグラスを洗いながら、あたしは明生の仕事姿を盗み見た。

仕事をしている時の明生は格好いい。普段の素行の悪さからは想像つかないくらいの、明生の真剣な目と繊細な指さばきはいつ見てもうっとりしてしまう。

そしてそれは、客用ソファーに座り、目の前に置かれた姿見越しに明生を見る女たちを簡単に落としてしまう。今日の客も、明生から目を離せずにいる。それを確認したあたしの脳は、淋しさと焦りという感情を体に放った。

やめて。

明生から目を離して。

あたしは唇を噛んで、零れそうになる言葉を飲み込んだ。

さっきまであたしを触っていた指で、他の女を触らないで……。

あたしは見るに耐えられなくなって、目を反らした。

「キキ、コーヒー入れてくれる?」

明生はエクステを編み込みながら、女の髪の毛に集中したまま言った。

「うん……」

あたしは冷静を装って、やかんを火にかけた。

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