愛しい遺書
「キキちゃん、看板のライト付けてくれる?」

久世さんに話し掛けられて、あたしは我に返った。

「あ、はーい」

看板をライトアップした。

Love Mania開店。

客が入るまで、久世さんとあたしは店のスクリーンでDVDを見ていた。今日の鑑賞メニューは『ホステル』。タランティーノプロデュースの、サディスティックホラー。グロいのが苦手なあたしは目を細めながら見ていた。

ちょうど主人公の友人が殺人マニアに電動ドリルで体に穴を開けられているところで、店のドアが開いた。あたしは本気でビックリして、小さく悲鳴を上げた。

「何!?どーした!?」

そう言いながら入って来たのは常連の井藤さん。井藤さんは斜め向かいに洋風居酒屋を経営している、久世さんの同級生。本人は忙しい時だけ厨房に入る程度で、経営の殆どを従業員に任せている。そして、ほぼ毎日営業時間はこの店で過ごしている。

スクリーンに映し出されているグロいシーンを見て、

「うわっ!おまえらすげーの見てんな!!」

とか言いながら、久世さんが出したブランデーの水割りを飲みながら見入っていた。

結局最後まで見てしまった。その間、客は一人も来なかった。

「『②』もあるけど見る?」

久世さんは嬉しそうに続編を出して来た。井藤さんはノリノリだったが、あたしは

「やだ!違うの見たい!」

と拒否した。

ホラーを見るか、コメディを見るか討論していると店のドアが開き、今日一番目の客が入って来た。

「いらっしゃいませ」

久世さんとあたしは偶然にも声が揃い、そのまま客をテーブルに促すと、久世さんはスクリーンをMTVに変えた。平日は仕事終わりの飲み屋のお姉さんたちがよく来る。アフターで客と一緒に来る人もいれば、反省会という名の女同士の座談会にもこの店はよく使われる。中には久世さん目当てっていうお姉さんもかなりいる。そういう人たちからあたしは軽く牽制されていて、あからさまに嫌な態度をとる人もいるが、そんなのをいちいち気にしてたら接客業は勤まらないし、たまに久世さんが逆牽制してくれる。

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