愛しい遺書
「昨日はどーもな」

そう言って明生はキッチンのカウンターにお盆を置いた。

「いつでもよかったのに」

あたしは洗濯物を干しながら言った。

「お前、今週休みいつ?」

「木曜だけど」

「んじゃ空けといて。髪洗うから」

「うん。わかった」

空になった洗濯カゴを脱衣室に置きに行って戻ると、明生は玄関でスニーカーを履いていた。

「……仕事?」

もう行っちゃうの?

本当はそう言いたいのに、堪えてぶっきらぼうに言った。

「いや。飯誘われてんだ」

振り向きもせず淡々と言う明生に、あたしは不安を覚えた。

「……そう」

スニーカーを履き、立ち上がった明生はこっちを見た。

「何?まだいて欲しい?」

ニヤニヤしながら言う明生に、あたしは縦に首を振りたい衝動を抑えて「別に」と言った。明生は唇の片方を上げ、フッと笑うと「じゃあな」と言って出て行った。あたしは明生が残して行った微かな香りが消えるまで、そこから動く事ができなかった。





夜。

今日のLove Maniaは久世さんが休みの為、彼女のカオリさんとあたしで営業中。

カオリさんが久世さんの彼女だという事はもちろん隠している。オーナー代理という事で、久世さんが休みの日だけお店に立つ。

井藤さんが当然のように遊びに来て、3人でお喋りしていると、店のドアが開いた。

「いらっしゃいませ……」

入って来た客を見て、あたしの胸の鼓動が急に暴れ出した。

明生だ。

そして、嫌な予感は的中した。

明生と一緒にいたのは、昨日の明生の客。

「あ〜!昨日の人だあ。こんばんわ〜」

編みたてのブレイズをなびかせて、明生の後ろを嬉しそうについてきた。あたしは作り笑いで「こんばんわ」と言ったが、内心泣きたい気分だった。

「明生〜、お前久しぶりだな!」

そう言って井藤さんは、自分の隣に明生たちを促した。

「オレしょっちゅう食いに行ってるっすよ。井藤さんいつもいねぇけど」

そう言いながら明生は井藤さんの隣に座った。もちろん、連れの女も。

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