愛しい遺書
明生はこの繁華街ではかなり名が知れている。美容師としても、女好きとしても。

美容師としてはこの通りでもかなりのリピーターがいるが、女好きとしては当然だが評判は最悪で、過去に泣かされた女たちが同盟を組んで、明生には近付かないように街中に噂を流していると聞いた事がある。

「何飲む?」

明生は女に聞いた。

「クミ、梅酒がいい〜。あ、ロックで」

女はあたしをマジマジと見つめながら言った。

「オレいつもの」

明生は煙草に火を付けながら言った。

いつものとは、チェリーブランデーのロック。明生は甘くて強い酒が好きなのだ。2人の酒を用意するとあたしはカウンターに上げた。明生と女はそれを同時に取ると、あたしの目の前でグラスを合わせて乾杯した。あたしはボトルを棚に戻そうと、背中を向けて舌打ちした。

井藤さんと明生が楽しく話している間、女は携帯をチェックしたり、椅子に座ったままクルクルと回り、店内を見渡していた。掲示板に貼られていた、週末のパーティを見て、

「レゲエのパーティあるんですかあ?」

と馴々しくあたしに話し掛けてきた。あたしは心の中で中指を立てながら、

「うん。よかったら遊びに来てね」

と愛想よく言った。

社交辞令でこっちは言ったのに、

「神童さあん、土曜日パーティだって!一緒に来ませんかあ?」

と明生のシャツの裾を掴みながら女は言った。

「ああ、いいよ」

明生は一瞬面倒くさそうな顔をしたが、断りはしなかった。あたしの心は嫉妬で一杯になった。



井藤さんの知り合いが飲みに来た。井藤さんがそっちに行くと、明生と女は楽しそうにお喋りを始めた。

しばらくすると、浮かれている女の携帯が鳴った。

「もしもし〜」

話ながら女は店を出て行った。

「キキちゃん、あそこのテーブルにブランデーの水割り3つお願い」

空になったグラスを下げながら、井藤さんは知り合いと自分の分のオーダーをした。

「お前、あのコ何番目よ?」

店の外の女を気遣うように、井藤さんは小声で明生に話し掛けた。

「数えたことないっすよ」

明生は笑いながら言った。

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