愛しい遺書
「うわ……何これ」

「だろ?とりあえず、そうなるよな」

あたしたちは黙ったまま、不思議な感覚のお湯の中で体を撫でていた。

「……中華丼の具って、こんな気分なんだろな」

明生は真面目な顔で言った。

「具の気分って……」

あたしは可笑しくなった。すると明生が急にお湯に顔を付け、うずくまるような格好をした。

「明生、何してんの?」

あたしが話し掛けると、明生はゆっくりと顔を上げて

「ウズラ。」

と言った。

「ウズラって!マジウケるし!!」

あたしは声を上げて笑った。

「で、具になった気分は?」

「……苦しかった」

「それ、明生の感想じゃん。ウズラになりきれてないじゃん」

明生の前で大笑いしたのはいつぶりだろう。あたしは久しぶりに緊張の糸が切れたような気がした。すると、明生はそんなあたしを見て、

「……ごめんな」

と言った。

「何が?」

「朝……泣かせちまって」

「……」

あたしは黙ったまま首を横に振った。

「お前が泣くのも、笑うのも、全部オレ次第なんだよな……。……他のヤツらはどうなんだ……」

女は自分を満たす為の道具。そう思って生きてきた明生が、女を知ろうとしている。あたしはなんとなくそう感じた。明生はあたしの腰を掴むと、持ち上げて自分の上に跨がせた。

「キキ、おまえだけは笑ってて……」

そう言うとあたしの胸に顔を埋めた。

「……この気持ちはなんなんだ……」

「……どしたの?」

明生は顔を埋めたまま首を横に振り、

「それがわかんねぇんだよ……」

と呟いた。

あたしはそれが愛であって欲しいと、願わずにはいられなかった。









お風呂から上がり、明生の髪を乾かした。

「オレ、明日とあさっていねぇから」

「……仕事?」

「うん。主張」

「そっか」

「留守の間、頼むな」

「うん」

「土曜日は仕事だろ?」

「うん。パーティーだよ。明生、約束してたじゃん。クミって子と」

「あ……そうだ」

明生もあたしも、次の言葉が見つからなくて沈黙が続いた。

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