愛しい遺書
明生の髪は乾かすのに時間がかかる。やっと乾かし終えて話し掛けようとすると、明生はうとうとしていた。あたしはそっと離れて自分の髪を乾かし始めた。ソファーに寄りかかっていた明生の頭がグラッと揺れると、びっくりしたように目を覚ました。

「起こせばよかったのに」

そう言って明生はあたしからドライヤーを取り上げた。

「気持ちよさそうに寝てたから。自分でもできるし……」

「プロをなめんなよ」

明生は手際よく髪を乾かし始めた。

「……あたし前髪作ろうかな」

「どういう風に?」

「なんて言うかわかんないけど、パッツンにしていみたいな」

「切ってやるか?」

「……いいの?」

「なに遠慮してんだよ。ほら行くぞ」

あたしは半乾きの髪のまま明生に連れられて明生の部屋に行った。

客用のソファーに初めて座ると、明生はあたしにケープを着せて正面に立った。サイドに流していた前髪を前に下ろすと、バランス良く分けてハサミを入れた。

あたしはドキドキしていた。仕事をしている時の真面目な表情をする明生を、こんなに近くで見るのは初めてなのだ。

「お前さぁ、オレが怖いから目ぇつぶってくんない?」

明生は笑いながら言った。

「あ、そだね」

あたしもつられて笑った。





「いいよ。見てみ?」

あたしは緊張しながら目を開けた。

「いいじゃん。かわいいな」

「……ホントに?」

「オレ髪に関してはぜってえ嘘言わねぇ」

明生に言われると、本当に自分が可愛く見えてきた。

「いくら?」

「いらねぇよ。お前から金取ったら、逆にメシ代払わなきゃなんねぇだろ」

「ありがとう」

「伸びてきたらいつでも切ってやるよ」

そう言いながら明生は途中だった半乾きの髪を、丁寧にブローしてくれた。










朝目が覚めると、あたしたちは手を繋いでいた。どちらから掴んだのか、わからない。あたしが幸せな気持ちに浸っていると明生の携帯のアラームが鳴り、明生はダルそうに手を伸ばして止めた。

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