愛しい遺書
あたしは噛み付かれた首筋を手で覆いながら呆然と立ち尽くしたまま、明生の後ろ姿を目で追っていた。



明生を見失ったのと同時に、泥酔して口を押さえた女の子がヨロヨロと現れ、トイレに向かって来た。あたしは我に返ってマナカたちの所へ向かった。テーブルに着くと何もなかったように酒を飲み、煙草をくわえた。すかさず翔士が火を差し出し、あたしはそれで火を付けた。

「ありがと……」

翔士を見上げると、優しく笑っていた。

「キキ、あたしたち踊ってくるね!」

マナカはそう言って梗平の手を引き、踊り騒いでいる人の中に潜り込んだ。

「あたしたちも行く?」

人混みで踊るには12センチのヒールは高すぎる。でも、あたしを気遣って翔士が楽しめないとしたら……。

「いや、オレはいいよ。そのヒールじゃあまたよろけてもなんねぇし」

翔士はあたしの心を見透かしたように言った。

「……ごめんね……」

「誤解すんなよ?オレはキキが高いヒール履いてて良かったって思ってるんだから」

「どうして?」

すると翔士は酒を一口含み、飲み込んだ。

「……これでゆっくり話しできるだろ?」

少し照れた顔が可愛かった。

ホールに響く歌声で、普通に喋ってても聞こえない。あたしたちはいつの間にか寄り添うように肩をくっ付けて話していた。





ステージで歌っているグループも残り2組になった。翔士の付けている腕時計を覗くと午前1時を回るところだった。

「マジ暑いー!!」

新しい酒を4人分持って、マナカと梗平が戻ってきた。

「盛り上がるならやっぱレゲエだよねー!!」

グラスをテーブルに置き、服の胸元をパフパフさせながらマナカが言った。

「あ!キキ、さっきカウンター行ったらさぁ、マスターがキキ呼んでちょーだいって」

「そう。多分カウンター入れってコトかも……行ってくる」

そう言うとあたしは翔士にも一言告げてカウンターに向かった。カウンターの近くまで行くと久世さんがあたしに気付き、寄ってきた。

「テキーラ切れちゃってさ。仕入れてくるから少しの間入ってくれる?」

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