愛しい遺書
あたしを見ると、安心したようにため息を吐いた。

「どうしたの?」

「夢じゃなかった……」

「夢?」

「ちゃんといた……」

そう言って翔士はあたしの存在が本物である事を確認するように強く抱き締めた。あたしは嬉しくなって翔士の頭を撫でた。想われる事の幸せを、翔士は思い出させてくれた。

この人なら、明生にしがみ付くあたしの心を引き離してくれるかもしれない。あたしはぼんやり感じた。

「腹減った……」

「あたしも……あ、マチコさんから貰ったやつ食べない?」

翔士はそうだ!という顔をして、子供のような顔で頷いた。とりあえず下着を付け、翔士はデニムだけを履き、あたしは家から持って来た着替えを着た。

リビングに下りると、熱々で食べたかったあたしはそのまま食べようとした翔士に「温めようよ」と言ってオーブンを借り、3分ほど熱した。その間翔士はドリンクを準備していた。

ピーッとオーブンが鳴り扉を開けると、ポテトがジュージュー音を立てていた。条件反射のように翔士のお腹も鳴って、あたしたちは顔を見合わせて笑った。

「いただきます」

両手を合わせて言い、食べ始めた。翔士はナイフとフォークを使って食べる、縦にも横にも大きいチーズバーガーに興奮しながら相変わらず子供のような顔で美味しそうに食べた。

「いつ見ても美味しそうに食べるね」

あたしが感心して言うと、

「自分で稼ぐようになるまで、こういうの食った事なかったんだ」

と言った。

「どういう事?」

あたしは不思議に思った。すると翔士は恥ずかしそうに笑った。

「オレのかーちゃんってさ、料理が下手でさ……それでも一生懸命作ってくれるから何も言えねぇだろ。かーちゃんなりに気にしてたんだろうな。オレが小5ん時、料理教室に通い始めたんだ」

「うん。で、上手になった?」

「……通い始めてから1ヶ月ぐらいは、その日習ったやつをメモ見ながら作ってくれてさ。すげぇ旨いってわけじゃねぇけど、ちゃんと進歩はしてた」

「うん」

あたしはバンズとハンバーグを一口大に切りながら聞いていた。

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