愛しい遺書
準備を終えて椅子に座ると、あたしたちは両手を合わせていただきますをし、肉と野菜を焼き始めた。テレビをつけるとバラエティー番組が入っていて、翔士もあたしも笑いながら見ていた。一言二言話すくらいで殆どテレビを見ていても、その間の沈黙に気まずさはなかった。

「焼けたよ」

「うん」

あたしは箸を付ける前に、翔士を伺った。美味しそうに食べる翔士の顔をついつい見てしまう。

「ん?」

「ううん。なんでもない」

「ウマイよ?」

「翔士の顔見てればわかる」

「マジで?」

「マジで。」

翔士は恥ずかしそうに笑った。あたしは安心して箸を付けた。

「やべっ!換気扇回すの忘れてた」

そう言うと翔士はキッチンの換気扇を回した。

「食ったら風呂入ろうな。キキも自由に使って」

「ありがと……あ。」

「どした?」

「着替え……」

「あ……だよな。オレのでよかったら着て」

「うん。ありがと」

テレビを見ながら茶化したり、笑ったり、少し会話して、ひたすら食べて、エンディングを迎える頃には満腹感と共に眠気がやってきて、あたしは大きなあくびをした。時計を見ると午後10時になるところだった。

「腹一杯になった?」

「うん」

「じゃあ片付けるよ?」

「あたしも手伝うよ」

あたしたちは両手を合わせてごちそうさまをし、片付けを始めた。

「湯、溜めてくるわ」

そう言って翔士は風呂場に行った。あたしは洗い物を続けた。翔士はあたしに着せる為のTシャツとショーパンを持って戻って来た。

「パンツねぇよな。……オレの履く?」

冗談っぽく言う翔士に、あたしは本気で頷いた。

「履かないよりいい」

「そぉ?じゃあ持ってくる」

翔士はもう一度寝室に戻った。食器を濯いでいると、あたしの携帯が鳴った。でもすぐに切れた。一段落終えて濡れた手を拭くと、携帯を見た。

――不在着信 1件 明生

あたしは驚いた。出会った頃は何度か電話でやりとりしていたが、スペアキーを渡してからは1度も明生から着信がなかった。久しぶりの明生からの着信に、何かあったのかもしれないと、あたしは気になった。
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